糸井重里
・ぼくは、人並み以上にラーメンが好きだと思っている。
どこそこのラーメンがおいしいぞとか聞けば、
電車に乗って出かけて行列に並んで食べるし、
定期的に行く贔屓の店もあるし、
ラーメンについての情報など知ることも好きだ。
ただ、ラーメンオタクではないような気もする。
行くし、食べるし、味わうし、考えるのだけれど、
ちょっとだけ距離を保っているという気もしている。
ラーメンは、まず、競い合ってる感じがおもしろい。
あのどんぶり一杯の出来ばえや評判で、
大きな人生の勝負をしているように見えるところがある、
その感じは、ちょっといまの時代のお笑いにも似ている。
お笑いだって、いわば裸一貫「しゃべり」だけで、
大きな成功に一気に駆け上ることができるように思えるし、
その競争している感じに、ぼくらはスリルを感じている。
もともと「人を笑わせる」のんびりしたものなのにね。
ラーメンだって、庶民的なスープ料理なのにね。
次々に「われこそは!」と名乗りを上げてくる者がいて、
あいつはすごい、この店はうまいという評判で、
それを推す人びとがぞろぞろとついていく。
ラーメンをつくっている店主たちのことが、
選手というか闘士のようにも感じられるのだ。
ラーメンづくりの「秘伝」「研究」については、もう、
まるで中世の錬金術師たちの秘儀のようである。
なにとなにをどれくらいの配分で、どれほどの時間配分で、
ああしてこうしてこうやって、もうわけわからない。
しかし、ぼくを含めたお客さんたちは、
「うまいねぇ、さすがだね」とありがたくいただいている。
正直なところ、その、魔術のように研究したことが、
ほんとうにそんなにすごいことなのかも、わからない。
もうラーメンという名の現代の「謎の古文書」を
どんぶりからすすって読んでいるようなものである。
でも、そこらへんがおもしろいんだよなぁ。
選手たちの戦いも興味深いし、創意工夫も研究も尊敬する。
ただ、どこかに「もっと簡単でおいしいラーメンは…
つくれるんじゃないか?」という気持ちもあることはある。
今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
だいたいの本気でやる競技は、おもしろい。ラーメンもね。






